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大阪地方裁判所 昭和57年(行ウ)27号 判決 1983年2月08日

富田林市大字新堂二、〇〇〇番地

原告

株式会社ピーエル農場

代表者代表取締役

小松久保

原告訴訟代理人弁護士

八代紀彦

佐伯照道

藤井勲

富田林市若松町西二丁目一、六九七番地の一

被告

富田林税務署長

中野栄丸

指定代理人検事

沢田英雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告会社

(一)  被告が、原告の昭和四五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税につき、昭和四九年二月二八日付でした更正処分および過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告会社の本件請求の原因事実

(一)  原告会社は、被告に対し、昭和四五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という)分の法人税として、所得金額〇円、税額〇円という確定申告をした。その内容は、別紙1のとおりである。

被告は、昭和四九年二月二八日、原告会社に対し、所得金額を三億三、〇〇六万四、八一二円、法人税額を一億二、一〇三万六、〇〇〇円と更正する(以下本件更正処分という)とともに、過少申告加算税として六〇五万一、八〇〇円の賦課決定をし(以下本件賦課決定処分という)、同日、原告会社に通知した。本件更正処分の内容は、別紙1のとおりである。

原告会社は、同年三月二八日、国税不服審判所に審査請求の申立をしたが、同審判所は、三か月以上にもなるのに裁決をしない。

(二)  しかし、本件更正処分は、原告会社の所得を過大に認定した違法がある。

(三)  そこで、原告会社は、被告に対し、本件更正処分とこれに伴なう本件賦課決定処分の取消しを求める。

二  被告の答弁

(一)  本件請求の原因事実中(一)の事実は、認める。

(二)  同(二)の主張は、争う。

三  被告の主張

(一)  原告会社、訴外ミキ観光株式会社(以下ミキ観光という)、訴外株式会社フードサプライ(以下フードサプライという)は、いずれも関連会社(以下ミキグループという)である。

(二)  原告会社は、昭和四五年三月三一日、ミキ観光から三重県上野市下神戸湯山谷二、六一六番三山林ほか一八筆の保安林、山林(以下本件土地という)を、一億七、三四八万八、五三五円(坪当たり八六九円)で買い受け、直ちにこれを、フードサプライに、二億二、六二一万四、三九五円で譲渡した。

フードサプライは、同年九月、訴外近畿日本鉄道株式会社(以下近鉄という)に対し、本件土地の一部を売却した。

(三)  しかし、本件土地の昭和四五年三月三一日当時の時価は、坪当たり三、〇〇〇円が相当であるから、本件土地の当時の時価は、六億〇、一八八万〇、八九〇円が正当である。そうすると、この価格と、実際の取得価格との差額四億二、八三九万二、三五五円は、原告会社がミキ観光から実質的に贈与を受けたものと認められる。したがって、この額は、原告会社の本件事業年度分の所得に計上されるべきである。

他方、本件土地の前記時価とフードサプライへの譲渡額との差額三億七、五六五万六、四九五円は、原告会社がフードサプライに対し実質的に贈与したものと認められる。したがって、このうち寄付金の損金算入限度額を超える三億七、〇八一万九、八三五円は損金に算入されない。

以上の次第で、原告会社の本件事業年度分の加算は、右の合計七億九、九二一万二、一九〇円となる。

(四)  フードサプライに譲渡した土地の正当な時価は、六億〇、一八八万〇、八九〇円であるから、原告会社が計上した原価一億七、三四八万八、五三五円との差額四億二、八三九万二、三五五円を損金に算入しなければならない。

(五)  原告会社の本件事業年度分の所得金額は、別紙1のとおり、三億三、〇〇六万四、八一二円となる。

したがって、本件更正処分は適法であり、これに伴なう本件賦課決定処分も適法である。

四  被告の主張に対する原告会社の反論

(一)  被告の主張中(一)、(二)の各事実は、認める。

(二)  本件土地の時価が、坪当たり三、〇〇〇円であることは、争う。

(三)  原告会社は、ミキ観光から本件土地を譲り受けたとき、これをフードサプライに直ちに譲渡することが義務づけられていた。したがって、仮に取得価額が時価に比し低廉であったとしても、この転売義務という負担がついていたことを考慮すれば、その差額のすべてが実質的に贈与されたものと考えることはできず、転売価額二億二、六二二万四、三九五円と取得価額一億七、三四八万八、五三五円との差額五、二七三万五、八六〇円(原告会社の申告額)がそれに該当するにすぎない。

(四)  法人税法(以下法という)三七条六項が規定する「実質的に贈与したと認められる」かどうかの判断基準は、当該資産を一旦他に時価で売却したうえその売却代金の一部を贈与したと同視できるかどうかである。

ところで、原告会社の本件土地の譲受けとその譲渡は、同一の担当者によってその価額も含めてあらかじめ企画されそのとおり実行されたのである。つまり、原告会社は、フードサプライへの右価額での転売義務つきでミキ観光から本件土地の譲渡を受けたのである。したがって、このような場合には、原告会社は、フードサプライに「実質的に贈与した」ものではない。ミキ観光が、原告会社に対し前述した五、二七三万五、八六〇円を、フードサプライに対し三億七、五六五万六、四九五円(前記四億二、八三九万二、三五五円から右五、二七三万五、八六〇円を控除した額)を、それぞれ実質的に贈与したのである。

(五)  被告は、ミキ観光に対し課税する際、法三七条六項を適用しながら、本件更正処分でも、同条項に基づいて更正をした。したがって、本件更正処分は、二重課税になる。すなわち、

本件土地の処分と同様の経済的目的を達するためには、ミキ観光が直接近鉄に売却してその代金のうちから、原告会社が約五、〇〇〇万円、フードサプライが約三億八、〇〇〇万円をそれぞれ贈与する方法及びミキ観光が原告会社に対し、近鉄への売却によって原告会社が約五、〇〇〇万円の譲渡益をあげるに足りる本件土地の一部を売却し、フードサプライに対しても同様に約三億八、〇〇〇万円の譲渡益をあげるに足りる本件土地の一部を売却する方法がある。このいずれの方法も、ミキ観光が課税されるだけである。ところが、本件では、ミキ観光に対し、法三七条六項によって加算されるうえ、原告会社まで本件更正処分によって同様の加算がされたわけで、これは、実質課税をはずれた二重課税である。

五  被告の反駁

(一)  被告が、法三七条六項を適用するとき、原告会社が主張するミキグループの内部的取りきめにそった税務処理をしなければならない理由はない。

原告会社が主張する転売義務づきで本件土地を譲り受けたということは、原告会社らが本件土地の譲渡に際し譲渡益に対する課税を極力回避するにあった。すなわち、

当初ミキグループが意図したのは、原告会社の取得価額約一億七、〇〇〇万円も、原告会社の譲渡価額二億二、〇〇〇万円も共に譲渡時の時価であるという前提により売買を行い、各法人の欠損に見合う売買益を配分して本件土地の譲渡益に対する課税を回避するというものであった。

ところが、時価がそのように都合よく変動する筈もなく、ミキ観光の本件土地の処分に関する訴訟で、時価は、すべて約六億円であるとの判決が確定した(大阪地判昭和五四年六月二八日、控訴審大阪高判昭和五六年二月五日、上告審最判昭和五七年三月九日)ので、各譲渡が低廉譲渡に該当することになった。

したがって、原告会社が実質的に贈与を受けた金額は、あくまでも時価約六億円と取得価額約一億七、〇〇〇万円との差額約四億三、〇〇〇万円であり、同時に原告会社が義務づけられたとはいえ、本件土地を約二億二、〇〇〇万円でフードサプライへ譲渡したのであるから、この取引により原告会社はフードサプライに対して、時価約六億円と右対価約二億二、〇〇〇万円との差額約三億八、〇〇〇万円を実質的に贈与したことになる。

このように、低廉譲渡という取引を経済的実質という観点で分析すると、対価相当額の売買契約と、時価と対価との差額相当額の贈与契約とが混在した契約による取引であるといえる。

以上の次第で、前述した内部的取り決めの有無には関係なく、時価より低い対価で行われた本件取引には贈与部分が含まれることになるから、原告会社が実質的に贈与を受けた金額は、あくまでも原告会社がミキ観光から買いフードサプライへ売った売買差額約五〇〇〇万円であるという原告会社の主張は、法三七条六項の解釈を誤っている。

(二)  原告会社は、フードサプライへの実質的贈与者が、ミキ観光であると主張しているか、フードサプライと売買契約をしていないミキ観光が、形式的にも実質的にもフードサプライに対する贈与者となる余地はない。

(三)  ミキ観光に対する課税と、原告会社に対する課税とは、全く別個の取引について別個の納税者に対して行ったものであって、実質的にも形式的にも二重課税であるはずがない。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、ここに引用する。

理由

一  本件請求の原因事実中(一)の事実、被告の主張中(一)、(二)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  法三七条六項のおかれた趣旨は、法人がその資産を低額譲渡することが、資産の時価との差額を贈与することと実質的に同じであることに着目し、低額譲渡の形式で租税回避を企図する弊害を防ぎ公平な課税を期することにある。

なお、ここにいう時価とは、客観的な市場価格を指称し、取引当事者が、これを認識していたと否とを問わない。

もっとも、同項によると、低額譲渡の場合であっても、時価との差額が当然に同条五項の寄付金の額とされるのではなく、時価との差額のうち「実質的に贈与したと認められる金額」が、同条五項の寄付金の額に含まれるものとされるのである。したがって、時価との差額があっても実質的に贈与したとみるのが相当でない場合は除外すべきであるが、「実質的に贈与したと認められる」ためには、当該取引に伴なう経済的な効果が、贈与と同視しうるものであれば足りるのであって、必ずしも、贈与者が贈与の意思を有していたことを必要とせず、時価との差額を認識していたことも必要としないと解するのが相当である。

そうすると、譲渡者が、時価を認識しながら、差額を贈与する意思でことさらに低額で譲渡した場合には、その差額を実質的に贈与したものと認め、法三七条六項によって税務処理をするのが正当であることは、いうまでもない。

そして、このことは、原告会社が、その主張のような転売義務つきで本件土地を譲り受けたことによって変わるものではない。

三  この視点に立って本件を観る。

(一)  前記争いがない事実、成立に争いがない乙第一号証、同第二号証の一、二及び弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められ、この認定に反する成立に争いがない甲第二号証の記載の一部は採用しないし、ほかにこの認定に反する証拠はない。

(1)  ミキグループの三社の経理部長は、いずれも、訴外植村恒吉であった。

(2)  植村恒吉は、本件土地の時価が、昭和四五年三月当時坪当たり三、〇〇〇円であることを知りながら、ミキ観光が直接近鉄に売却した場合にミキ観光に課せられる多大の法人税を免れ、かつ、原告会社、フードサプライの欠損を補填する目的で、本件土地を、ミキ観光から原告会社、原告会社からフードサプライ、フードサプライから近鉄へと順次譲渡しようと企図した。

(3)  そこで、ミキ観光は、同月三一日、原告会社に対し、本件土地を一億七、三四八万八、五三五円(坪当たり八六九円)で、原告会社は、直ちにフードサプライに対し、これを二億二、六二二万四、三九五円(坪当たり一、一一八円)で譲渡した。

(4)  ミキ観光及び原告会社の各取締役会は、その後、植村恒吉のした右の各譲渡を承認した。

(二)  以上認定の事実によると、本件土地の昭和四五年三月当時の時価は、六億〇、一八八万〇、八九〇円(坪当たり三、〇〇〇円)であり、ミキ観光は、原告会社に対しこれより著しい低額である一億七、三四八万八、五三五円で譲渡したことに帰着する。

そうすると、原告会社は、この差額である四億二、八三九万二、三五五円をミキ観光から実質的に贈与されたとするほかはない。したがって、この額は、原告会社の本件事業年度分の所得に計上するのが正当である。

他方、本件土地の時価とフードサプライへの譲渡額二億二、六二二万四、三九五円との差額三億七、五六五万六、四九五円は、原告会社がフードサプライに対し実質的に贈与したものと認めるほかはない。したがって、法三七条二項、五項、六項法人税法施行令七三条一項により、このうち寄付金の損金算入限度額を超える三億七、〇八一万九、八三五円は、原告会社の本件事業年度分の損金に算入されないとするのが正当である。

そして、本件土地の時価と原告会社が計上した原価一億七、三四八万八、五三五円との差額四億二、八三九万二、三五五円は、原告会社の本件事業年度分の損金として算入されるべきことは、当然である。

(三)  そこで、成立に争いがない乙第四号証(原告会社の本件事業年度分の確定申告書)を手掛りに、原告会社の本件事業年度分の所得金額を計算すると、別紙2の所得金額の計算書のとおり三億三、〇〇六万四、八一二円になる。

(四)  まとめ

以上の次第で、原告会社の本件事業年度分の所得金額は、本件更正処分のとおりの額であることに帰着する。

四  原告会社は、本件更正処分が二重課税であると主張しているが、被告は、ミキ観光の昭和四四年四月一日から昭和四五年三月三一日までの事業年度分の所得として、寄付金の損金算入限度額を超える四億二、二六二万一、二七八円(時価六億〇、一八八万〇、八九〇円から原告会社への譲渡価格一億七、三四八万八、五三五円を控除した額などによって算出)を益金に加算してミキ観光に対して更正処分をした(前掲乙第一号証による)のに対し、本件では、ミキ観光から原告会社に対する本件土地の譲渡価格と時価との差額が受贈益になるとともに、原告会社からフードサプライに対する本件土地の譲渡価格と時価との差額が法三七条六項にいう「実質的な贈与と認められる場合」に該当することにより損金扱いが受けられず、原告会社の本件事業年度分の所得となるかが問題になっているのである。したがって、納税者を異にするミキ観光の課税が、原告会社に対し二重課税となる理由は、どこにもない。

五  むすび

被告のした本件更正処分及び本件賦課決定処分は、正当であるから、その取消しを求める原告会社の本件請求は、失当として棄却を免れない。そこで、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 孕石孟則 裁判官 八木良一)

別紙1

本件土地の譲渡が行われた事業年度のミキグループ法人の所得及税額一覧

<省略>

(注)1.申告の「当期所得金額」欄の内書は、本件土地の売買差益金額である。

2.更正の「当期所得金額」欄の内書は寄付金の限度超過額として否認した金額である。

3.ミキ観光の「更正」欄の金額は第二次更正分であり、繰越欠損金は第一次更正により零となっている。

別紙2

所得金額の計算書(円)

<省略>

<5>の計算式

48,111,344-7,356,321=40,755,023

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